コンサルタントの日々学び

日々のデリバリーで得た体験、ノウハウ、教訓とかを週次ベースで書き留めていきます。

オピニオンの具体例と5つの示唆

以前、この記事で「自分のオピニオン(仮説・意見)をもつべし」ということを書いた。
オピニオンを考える難しさと4つの軸 - コンサルタントの日々学び (hatenablog.com)
ここではオピニオンを考える要素・考え方を書いたが、「どんなのがオピニオンなのか」「お客さんにどんな価値を出せるのかか」をもう少し補足しよう。

お客さんがなんとなく思い描いていることに対して、コンサルタントがオピニオンを持って臨む。
これで得られる価値は新たな示唆だ。
示唆とは「新たな気付き」であり、「今の行動を思いとどまらせる」もの。
具体的には以下のような示唆が期待できる。

①頭の中を具体化する、実態を浮き彫りにする
②今ある構想をブラッシュアップ/見直させる
③新たなすべきことに気付かせる/リソースの優先度をつける
④危機感を高める、リスクに気付かせる
⑤考えるプロセスを考える

具体的にどんなオピニオンをぶつけ、どんな価値が出るかを見ていこう。
ある製造業の顧客で、「DXで事業を加速したい」というニーズからはじまったプロジェクトを例にとる。

①頭の中を具体化する、実態を浮き彫りにする
DXとは流行り言葉で、どうとでもとれる抽象的な概念だ。
「DXで事業を加速したい」とはどういったことなのか?ただただヒアリングするだけでは何がしたいか見えてこない。

これに対し、
「きっと10年後、事業環境はこうなるはずだ」
「事業・サービスを一気通貫で提供すべきで、予防・検知・対応まで、自社主導で提供していくことが求められるはず」
「そうなると今は各事業バラバラで動いているので、統合IDに手をつけないと事業の足を引っ張る」
という自分なりの仮説・意見を考えたとする。

これを顧客にぶつけることで、顧客側から
「自分が思っている10年後は違う、もっとここが大体的に変わるはず」
「事業バラバラと言うけど、検知・対応の領域はある程度サービスがつながっている」
「統合IDに手をつけないといけないのはそのとおり」
「逆に予防の部分は手薄であり、人手・勘に頼っているのでここをITで何とかしたい」
というような意見がでてくるだろう。

ひとは何もない状態ではなかなか頭の中を具体化・言語化するのは難しい。
的外れでも(本当は的得たものがいいが)、何か具体的なものがあることで「これではないな」ということがわかる。
これがオピニオンとしての1つの価値だ。

②今ある構想をブラッシュアップ/見直させる
さきほど「的外れでも」と書いたが、これが的を得たものだと当然それも1つの価値だ。
「統合IDに手をつけないと事業の足を引っ張る」という示唆が、顧客がハッと気づきを得られればそれだけで価値がある。

それ以外にも、顧客より広い視点・別の視点で考えることで
「検知・対応が現状もサービス提供できているが、課金モデルは都度対応費用をもらっている」
「予防保守サービスや保険と紐付けないと利益獲得につながらない」
「そのためにもの出口戦略といての事業・サービス強化をすべきである」
というような意見をぶつけ、「確かに」と頷いてもらえれば万々歳だ。

顧客が気付かなかったことに気づかせ、考えを深めブラッシュアップすることができる。

③新たなすべきことに気付かせる/リソースの優先度をつける
大々的な構想を描きぶつけるオピニオンでなく、別の観点でオピニオンをぶつけ価値を出す方法もある。

DXのような将来の構想を立てようとする際、遠い未来を構想することが多い。
逆に、経営層の目線を気にしすぎて、短期的な利益を志向することもある。

こういった顧客の傾向に対して、自分なりの意見をぶつけることで考える視点を変えるのだ。

例えば遠い未来を構想している場合には
「AI活用なり言ってますが実現までに何年かかるんでしょう。もっとクイックに効果を出す策もあるのでは」
「将来こういうサービスが必要なら、まず検知・対応のサービス一貫化が優先では」
「ID統合に全システムをまっさらから統合することを考えてますが、ココとココをまず改修すればやりたいことの6割は実現できていると言えるのでは」
など考える視点を変える意見をぶつけ、構想の実現度を高めていく。

逆に短期的に考えている場合には、
「保守計画をシステムでつくれるように、とおっしゃってますがそれで投資を押し通せますか?」
「その先の計画自動化に、これがまず土台として必要、という先々を見据えて訴求すべきでは?」
などを訴える。

これも事前に自分なりに意見や仮説を考え、「経営層含め納得してもらうには?」「現場含め理解してもらえるか?」と考えなければでてこない。
まがりなりにも自分のオピニオンを考え、その先を見据えておくのだ。
「DXで事業をどう変えるか」という構想はショボくとも、別の観点で示唆を出すことで、顧客の構想をより高めることができる。

④危機感を高める、リスクに気付かせる
構想を自分の頭で抽出しきれなくとも、他社の情報や知見をオピニオンとしてぶつけ価値を出す方法もある。
例えば
「事業・サービスを一気通貫で提供すべき」
「統合IDのような情報の紐付けが必要」
ということは顧客と意見が合ったとしよう。
だが、実際にその度合を聞いてみると、事業の横連携が皆無・情報の紐付けをアナログと勘でやっていることがわかり、自分の想定よりお粗末な状態だった場合。

「経験や知見からこれくらい計画予測はできてると思っていたけどそれよりお粗末ですね」
「本来的にはここまで目指すべきですが、あなた方はその土俵に至っていないマイナスな状態ですよ」

このような意見をぶつけることは失礼だ、という人もいるだろう。
だがぶつけることで、顧客が危機感をいだき、「マズイな」「早急に手を打たないと」とプロジェクトに対する姿勢が変わることが期待できる。
現状のお粗末さを気付かせることで、優先してすべきことや注力すべき事が見えてくるも。
当然充分なファクト・裏付けは必要だが、プロジェクトへの本気度も変わり、構想の内容もブラッシュアップが図られるなら、意見をぶつける価値はある。
 
それ以外にも、他のプロジェクトで知り得た情報や知見から
「投資でこれくらいは必要になるはず、その覚悟あります?」
「システム作り変えるなら今のうちからベンダー選定した方がいい、市場活況でなかなかベンダーも捕まらないですよ」
 という意見を提示することで、今後のアクションを変えたり促したりすることにつながる。

⑤考えるプロセスを考える
自分なりのオピニオンを考えたプロセス自体が役立つこともある。

例えばDXの構想を自分なりに考える際に、市場変化を捉え、10年後どう変わるか見立て、そのときの人の行動や考えの変化を予測し、そこで必要なサービス考え、現状を比較する、という流れで考えたとする。

考えた結果がショボくても、この考えたプロセスをオピニオンとしてぶつけることで、
「自分は現状の延長から考えてた、確かに将来見据えて考えた方がいいかも」
「プロセス可視化してみると競合の動きは捉えてないかも」
と意見がでてくる。このことで考え方を見直し、当初想定していた構想をブラッシュアップしていくことができる。

これもまず自分で考えないと、どんなプロセスを経るべきかは見えてこない。プロセスだけを考えても、それがイケてるか、ちゃんとアウトプットを出せそうかも判断できない。
事前に自分なりにオピニオンを考えておくことが重要となる。

 
コンサルタントで「この人、すごいなー」と思う人はこの、オピニオンをぶつけ、示唆を出す、というのを自然とやっている。(当然裏でしっかり考え、準備しているのだろうが)
まとめやスピードが価値のコンサルタントと、顧客の思考を深めるコンサルタントとの違いでもあるのだろう。
このスキルを高めるには、「ショボくてもやってみる」ことを繰り返すしかない。

その際、②をオピニオンの価値だと捉え、自分で考えてもいいものが出ずに、「これはぶつけても仕方ないな」と諦めてしまう人が多い。
顧客のほうが当然、事業・業務をよく知っており、常にそのことを考えているため、②のような新たな示唆に気付かせるのは難易度は高い。
だが、ここで見たようにそれ以外にもオピニオンを考えることはいろいろな価値がある。
それに気づき、「的外れでも顧客の議論が促進するなら」と自分なりのオピニオンを考え、顧客にぶつけるようになってほしい。