コンサルタントの日々学び

日々のデリバリーで得た体験、ノウハウ、教訓とかを週次ベースで書き留めていきます。

議論の準備の5つの型、あるいはコンサル能力問われる場面

顧客との打ち合わせに臨むにあたり、「さて、どこまで討議資料として準備しようか」と迷ったことはないだろうか。
特にコンサルティングの現場だといろいろなケースがある。
・顧客が「答え」や「まとめ」を求めており、「こうじゃないですか」を出すのがよい場面
・参加者の納得性が求められており、いろんな意見を出し合って議論を戦わせたい場面

この2つでも討議資料の準備の仕方が変わる。
前者だとコンサルタントとして「こうでしょ」という叩き台なりをもっていくことが価値があるが、後者でそれをやると総スカンを食らうか、「コンサルタントがおっしゃったもの」と他人事な議論に終わってしまう。

議論の進め方にも通ずるが、議論の準備レベルにも型がある。
これを知っておくだけで、「今回はどんな議論をするか、そのためにどこまで準備しておくか」が判断しやすい。
今日はこの議論の準備レベルの型を紹介しよう。

その型は5つにわかれる。
①ブランクアプローチ
ヒアリングアプローチ
③フレームアプローチ
④選択肢アプローチ
⑤叩き台アプローチ

1つ1つどんなものか、どんなケースで使うとよいかを説明していこう。
ケースとして、プロジェクト投資の上申をどう仕立てていくのか、顧客関係者と議論する場面を想像してほしい。

①ブランクアプローチ
これは議論したいこと、論点のみを示して、その場で意見を聞きながら、議論していくアプローチだ。
プロジェクト投資の上申だと論点として
・上申先はどこか、それ以外に根回しすべき先はあるか
・上申時に必須な項目な何か、どう作成していくか
・決裁で指摘されることとして何が想定されるか、そのための対処は
などのみを示して参加者と議論していく。

このアプローチの使い所は「顧客がある程度中身を知っており、案をもっている」場合、「コンサルタントが案を持っている」場合などに限られる。
準備の時間は要さないのだが、顧客/コンサルタントのどちらかが知見や案をもっていないと沈黙が続いたり案がまとまらなかったりというケースが多い。結構リスクがあるアプローチだ。
あまり経験がないコンサルタントが使った場合、議論が錯綜するかまとめきれずに自爆するケースが多い。注意が必要だ。

ヒアリングアプローチ
これはベースとなる資料をもとに議論をしていく。
プロジェクト投資の上申だと、過去の上申資料をベースに①のような議論を進めていく。
①のような論点に対しても
・今回は投資額が大きいから、ここまで根拠を求められる
・過去今回と同じようなプロジェクトだと、この項目についての指摘が相次いだ
など、このケースの方がベースがあるため、議論はしやすい。

このアプローチの使い所は過去に同様のことを行った実績などがある場合に、時間をかけずに準備できる。
また、現状の課題や改善点をヒアリングしてくときもこのアプローチをとる。
ただ、新しいビジネスや施策を議論したり、これまでとまったく異なる内容を取り組む場合にはこのケースは適さない。
その場合には③以降のアプローチを用いる。

③フレームアプローチ
これは、整理の枠組み(フレーム)を出して、それに沿って議論するアプローチだ。
フレームは、一般的なフレームワークだけでなく、他社事例を出すことも含まれる。
プロジェクト投資の上申だと、一般的な上申に向けた企画のフレームは下記がある。
・取り組みの背景、現在の問題点
・目指す姿
・アプローチ、主要論点と主要施策
・想定リスクと対策
・与件・前提
・体制、予算
このフレームに対し、今回の上申で足りない部分はどこかを議論したり、枠の内容を埋めていく。
これに他社で上申した際の内容・事例を記載して、「今回どうしようか」を議論するとさらによい。
その場の議論は、事例の中身をベースに追加・修正することに集中できる。

新しいビジネスを議論する際も、ビジネスモデルキャンバスなどのフレームワーク、他社で実際検討したときの内容を提示することで議論はぐっと進みやすくなる。
ただ、準備自体はコンサルタントの知見や調査にかかっているので、知見がない場合には事前の調査や他のコンサルタントへのヒアリングをまえもって行っておく必要がある。

④選択肢アプローチ
これは③の事例などから、とりうる選択肢をパターン化して議論する。
例えばプロジェクト投資の上申についても3つのパターンがある。
①ROI投資→投資対効果をしっかり出して、効果が上回ることを訴求する
②基盤投資→業務を行う上で必須であり投資対効果はでない、基盤であり必要投資であることを理解してもらうか、定性効果や投資しない場合のリスクを訴求する
③戦略投資→まだやったことがないことへの投資であり、効果は未知数なので、実現した姿や経営戦略への紐づきを訴求する
そもそも、今回の投資はどれにあたるのか、を議論する。
それ以外にも上申した内容を「投資額多額の場合」「効果が未知数の場合」「IT系の投資の場合」にパターン分けし、それにそって事例を提示して議論していく。

このアプローチだと、土俵に挙がった選択肢に対してメリデメを議論し、中身を詰めていくことになる。
そのため参加者としては全体観をもって議論がしやすい。
中身を議論するよりも、方向性や方針など抽象度高い議論をする場合にこのアプローチを取ることが多い。
ただ、これは③よりも準備は難しく、リスクもともなう。
このパターン化がうまくないと、「いやこういうパターンもあるでしょ」「なんか同じこと言ってない?」と議論がパターンの良し悪しにそれてしまう。
コンサルタントの整理能力を問われるアプローチだ。

⑤叩き台アプローチ
これはコンサルタントが具体案や完成形の資料を持ち込み、意見、レビューをいただき最終化してく。
プロジェクト投資の上申のケースで言えば、コンサルタントが「今回の上申資料つくってきました、中身見てフィードバックください」という臨み方だ。

このアプローチは最も参加者の負荷は少ない。形あるものに対してレビュー、意見することは1から案を考え議論するより容
だからだ。
ただし、冒頭述べたように、下手をすると「コンサルタントの案の押し売り」になるリスクがある。
参加者との議論や意見収集が十分でないと納得感がでないし、理解も追いつかない。
使い所としては、参加者から全く案がでない場合、もしくはこれまで十分議論・意見収集しており議論をまとめるのみの場合などだ。
下手にこのアプローチをとるのであれば、コンサルタントとして叩き台はもっておくとして、そこから選択肢やフレーム・論点のみ抜き出して、①③④のアプローチを取るほうが参加者の理解・納得を得られる。


今回5つの型を紹介したが、それぞれ一長一短がある。
コンサルタントの知見や能力が問われるもの。
準備に時間がかかるもの、かからないもの。
顧客の議論の状況。

時間がないからといって①のアプローチをとると、結局議論が成立せずに「もう1回議論しよう」と逆に時間がかかる場合もある。
それぞれの要素を鑑みて、「今回どの型をとるべきか」を正しく見極めて、必要に応じ前もって準備したり、間に合わなければ議論を延期にすることも考えていこう。