コンサルタントの日々学び

日々のデリバリーで得た体験、ノウハウ、教訓とかを週次ベースで書き留めていきます。

「失敗の本質」とサンセットの必要性

私が勤めているケンブリッジでは、プロジェクトが終わった後やフェーズの境目(要求定義、設計、など)に、活動を振り返るサンセットという場を設けている。プロジェクトのメンバーが全員集まり(当然パートナーも)、活動のよかったところと改善点を振り返る。
どんな振り返りが挙がるかというと
・思った以上に追加の打ち合わせが発生し残業が続いた。提案時に正しく工数を見積れなかったのか。
・納品間際はバタバタした。段取りが悪かった。
・フェーズは終われたが継続はできなかった。もっと価値を見せれなかったか。
など生々しい「できなかったこと」「うまくいかなかったこと」も含めて振り返る。反省点はその場で別途1時間くらいか時間を設けて、事実確認や次のフェーズ・プロジェクトで活かせる点まで整理する。

 

えてして日本人は振り返りが少ない傾向がある。むしろしないことの方が多い。
失敗の本質は、大日本帝国が太平洋戦争でいかにして敗北を喫したのか、について書いた本だ。失敗理由はいくつかあるがそこには「失敗から学習する意識の軽視」も書かれている。
今のコロナの国の対応やオリンピック開閉会式の一連の騒動でもその傾向を垣間見れる。なぜこうなったのか、再び同じ事態を招かないためにはどうすべきか、振り返った上での対策は検討されない。なので同じ事態が起きても同じことを繰り返す。
「失敗の本質」で書かれた失敗に陥る傾向を未だに引き継いでいる。

プロジェクトでも同じだ。
「やっとプロジェクトが終わった!」という完走感には浸るが、振り返りはしないことが多い。プロジェクトの特質上、「数年に一度だし」「次自分がやるわけではないし」という気持ちから振り返りに気が向かない。

 

だが、プロジェクトは非常時の活動なので組織能力を高める機会としては貴重だ。

例えば、ある事業部のビジネス戦略を立案するというプロジェクトが終わったあとプロジェクトの振り返り、我々で言うサンセット。そこの振り返りとして「戦略は立てたが、我々がいなくなると本当に実行されるのか不安がある。もう少し実行のための手立てを議論してもよかったかも」という反省が挙がった。
そこでその反省に対して小一時間、プロジェクトメンバーで事実確認と「やれたこと」を振り返った。
・内部調整の足がかりや対外的な説明の準備を支援しても良かったかも
・顧客内部や「顧客の顧客」に対してはすでにアクションをとっているらしい、その点は大丈夫そう
・市場の興味・動向アンケートを準備したら内部・外部と話を進める上でいい後ろ盾になったかも
・別組織を立ち上げる、などコミットメントの動きをとってもよかった
・とはいえ数カ月後に中計策定の場があるのでそこには盛り込まれるのではないか
などいろいろな意見が挙がった。
そこで「中計策定の時期にコンタクトをとって状況を確認しよう」というアクションも決まった。
それだけではない。
・結局実行しないと意味がないので実行の足がかりまでやるべき、そこも提案討議時に話にあげるのが顧客にとっていい
・実行の足がかりにも説明準備や組織立上などいくつかレベル感があり、「どこまでやるか」という軸になる
と私にとっては「次にプロジェクトを進める/提案するときに討議する観点」というものが数多く得られた。

 

サンセットとしてフェーズ・プロジェクトの終わりに、ちゃんと時間を確保するとこんなことが期待できる。
①プロジェクト推進中だとなかなか言えなかったこと・もやもやしていたことをオープンにして、PMやパートナーとじっくり話せる
②メンバーとして「そもそもなぜこれをここでやるか」という進め方や方法論で理解に至らなかったことをじっくり腰を据えて話せる
③フェーズで区切ることで次やその先など長期的な視点で今を見つめられる
④今回の失敗を題材に「すべきだったこと」を見出すことで継続的な活動、この次に活かすことができる
どこぞのトレーニングや勉強会にでるよりもずっと学びは多い。

ではサンセットをどう進めたらいいか?特段の方法論はない。
だいたいは2時間程度全員が集まれる場を設け、チーム単位・個人単位で各自よかった点や改善点を挙げていってもらう。これに1時間。改善点などの中で「特に討議したい課題」をピックアップし、残り1時間で「どうすべきだったか」を討議する。
振り返りの観点としては、
・当初の目標・目的は達成できたか
・さらに改善すべき点、品質や生産性を高められる点はなかったか
・次の工程に共有すべきノウハウや学びは
・今後の懸念点、課題になりそうなことは何があるか

プロジェクトの期間が長い場合は全体スケジュールを見ながら起きたことを振り返ったりもする。
また人数が多い場合はチーム単位で分かれたり、事前に書き込みを依頼した入りする。
ただやり方自体は「各自よかった点や改善点を挙げ」「課題を討議する」という流れに変わりはない。

何より大切なのは「振り返りの場をちゃんと持つ」ということ。それも関わったメンバー全員参加して。
「失敗から学習する意識の軽視」、これはもう日本人に根付いた特質だ。
その特質があることを念頭に、そのための手として「必ずサンセットをやる」というルールを課す。

もしこれができないのであれば、すでに「失敗から学習する意識の軽視」にどっぷりはまっている証拠だろう。