コンサルタントの日々学び

日々のデリバリーで得た体験、ノウハウ、教訓とかを週次ベースで書き留めていきます。

実行に移すための態勢づくりとチェンジマネジメントのいくつかのコツ

我々コンサルタントは主に課題解決のためにお客さんに呼ばれて支援させていただく。
たが、所詮どこまでいっても「部外者」なので、実行に最後まで携われる機会は少ない。
システムなどで構築まで一緒に、その後の安定稼働まで一緒に、ということはあれど、その後の運用では顧客が主体だ。
場合によっては、課題解決の施策と計画は立てるが、そこでコンサルの支援はおしまい、ということも多い。

このときに起きがちなのは、「計画は立てど、巨像は踊らず」という状況だ。
いい施策や、これをやりさえすればうまくいく計画を立てても、実行に移されない。
プロジェクトは作ったこと・承認されたことで満足し、解散。そのあとの一歩が踏み出されない。

コンサルタントとしてこれほどやりきれないことはないだろう。

ここに必要になるのがチェンジマネジメントと言われる、態勢の質の変革だ。(態勢とは物事に対する身がまえや状態のこと)
計画だけでなく、それを実行するための心持ちを変えていくこと。
お仕着せでなく、本当に「これをやらなければ」という使命感をつくること。

計画と態勢、この両輪があってこそ、つくられた施策や計画は実行に移り、そして効果を発揮していく。

このチェンジマネジメント、言うは易し、行うは難し。
人の意識を変えるというのはなかなか容易なことでないのは誰もが知ることだろう。
例えば、育児に非協力的な旦那の意識を変えるとしたらどうだろう。
そう易易とは意識が変わるものではない。(だからネット上でも奥さんの嘆きが尽きることはない)
ミルクの入れ方やおむつの変え方のレクチャーや行うタイミングを明らかにしても、旦那が協力的になるとは限らない。
意識が変わらないと、はじめはやってくれても徐々にやらなくなってしまう。


ではチェンジマネジメント、どうするとうまくいくのか。
ここでは、5つのステップごとにコツを紹介する。
ある部署でペーパーレス化が命題として与えられた、という場面を想定して説明していこう。

①危機感を醸成する
「やらないとどうなるか」を示し、共有することからはじまる。まずは「やらなきゃヤバいな」と思わせるのだ。
ペーパーレス化をやらないとどうなるか。
「年間XX枚、X円のコストになっている」。
それだけでなく、「紙を出してハンコを押して回覧してにX時間とられている」と自身に関わる「どうなるか」も明らかにする。

このときのコツの1つは、やらないとどうなるかをファクトや数字でで示すことだ。
「この作業でトータルX時間とられているでしょ」
「部門内利益のX%をこれで失ってますよ」
とファクト・数字で示された方がその悪さを実感しやすい。

それ以外にも、外圧や経営環境から危機意識をつくるやり方もある。
「同業のX社はもうここまで進んでますよ」
「ペーパーレス化は一般化しており、できてないと逆に遅れていると見られます」
など、ライバルや市場動向に敏感な会社だと響きやすい。

また、「他からこう見られてるよ」を突きつける方法もある。
1企業内なら「この部署は随分遅れている、そのせいで手間を強いられていると見られてますよ」。
企業としてなら「顧客から随分昭和な仕事をしていると見られてますよ」。
と外部からの見え方を示すことで、「客観的に自分たちはマズイんだな」と意識が高まる。

②夢を描く
「やらなきゃヤバいな」と思ったのちは、「こうなったらいいよね」と夢を描かせる。
「ペーパーレスになったらプリンタ待ちとかなくなるよ」
「ペーパーレスだと外で仕事完結するので、業後に職場に戻ることはなくなるよ」
など、これができたらどう会社がよくなるか、本人たちがどう嬉しくなるかを視える化していく。
それにより「これはやった方がいいな」という気持ちを高ぶらせていくのだ。

このときに、トップ・組織の期待を混ぜるとより効果的だ。
「君たちのペーパーレス化で会社全体の業務効率はグンとあがる」とトップから期待の言葉をもらう。
「弊社のコスト削減の一貫としてこのプロジェクトはある」と経営戦略・部門目標との関係を紐とく。
すると、これをやることが自分の得だけでなく、会社全体の得にもつながるとわかると、取り組み姿勢がより強固になる。

③策を練る
ここまで危機感をいだき、将来の期待を持ち、取り組む姿勢をつくってきた。
ここから「何をするのか」「どう解消していくのか」、施策を練っていく。
施策の出し方はいろいろ語るべきことが多いのでここでは省くが、ここではチェンジマネジメントとしてのコツを1つ紹介しよう。

それは策を練る際に、外部事例や実践例などを示し、視野を広げることだ。
「同業他社、似た企業でもここまでできている」
「実際にこれだけの効果が得られている」

これを行うのは、「本当にできるのか」「自社は特別だからムリじゃないか」という思考のタガをとるためだ。
危機感と期待だけでは個人の考えを変えるにはまだ不十分。どうしても現行踏襲にとどまってしまいがち。
それに対して事例をぶつけ、「なぜできないのか」「自分たちがやってることが本当に正しいのか」を見つめなおしてもらう。
「そうはいってもウチではやれない」という言い訳で実行に移されないことはよくあるが、それをこの段階で抑止するのだ。

④実行時の疑心を防ぐ
策も練ってさぁ実行、の前にもチェンジマネジメントとしてやっておくことがある。
この段階では「そうはいっても本当にできるのか」「形だけでみんな本当はやらないんじゃないのか」とモヤモヤが募っていることが多い。

それに対して、みんなが考えているリスクや懸念を洗い出し、一つずつ潰していく。
「全部署、全顧客がペーパーレスに賛同していくれないのでは」
「トラブルなどでシステムとまったらどうなるんだ」
「操作が変わると年配者がついていけなくなるのでは」

こういったリスク・懸念を出してもらった上で、対応策を事前に決めておく。
「ペーパーレス賛同しない部署にはその分のコスト・工数を負ってもらう」
「トラブル発生時の回避策を準備しておく」
「3ヶ月前から徐々に教育し、しばらくは若手の対応体制をつくっておく」
などなど。
これにより「そこまで考えてあるなら安心」という状態をつっていく。
この対応策は「考えただけ」では意味がなく、コミットも重要になる。
そのため、部門長やグループリーダーなどその責を負える人を巻き込み、組織としての意思決定にしておく。

これでも個人レベルでは不安を抱いていたり、人によっては不満を持っている方も存在する。
そういう人のために「出口」であり「はけ口」を準備しておくことも重要だ。
実行前の個別ヒアリングを設定して、1人1人思いの丈を語ってもらう。
飲み会などオフセッションを設けて、気軽に思っていることを言ってもらう。
こういった「聞いてもらえた」という事実があるだけでも人の意識は前向きになる。
1人1人に光があたっている、と思ってもらうことで、「何かがあってもこうして話せば良い」という状況をつくる。いわゆる心理的安全性だ。
変革という、大変で苦労することを実行に移すには、心理的安全性をつくり、安心感をつくるのも重要な要素だ。

⑤小さく実績をつくり、褒め称える
さてこれから実行に移すのだが、そのときにもチェンジマネジメントの観点でコツがある。
それは計画・実行を「いきなり一気呵成」で臨まないことだ。
やるならちまちまやらずに一気に進めたい、と思うかもしれない。
だが、一気に結果を求めると、効果が見えてくるのに時間がかかり、それにより熱がさめていく。

それよりも、まずは小さく・トライアルでもいいので、実績をつくることを優先する。
たとえばベテラン・知見者がいたり、協力的な部署から始める。
ペーパーレスでもっとも代替しやすい箇所からはじめる。
こうして小さくとも実績をつくることで、できること証明、「できない理由はない」ことを証明する。
この実績と証明が、その後の実行を加速度的に進めていく。

またこの結果がでたときには大々的にアピールしてほしい。
経営層に効果をうたい、称賛してもらうように依頼する。
事例なりニュースリリースとして社内外に広報する。
こうすることで「俺達のやっていることは間違ってない」と気持ちが高ぶり、その後のやる気につながっていく。


5ステップでコツを紹介したが、読んでもらってわかるように奇策はない。
各ステップでこまめにコツコツ意識づくりを進めていく。
そこがチェンジマネジメントの難しい部分でもあり、つい手を抜いてしまい態勢がつくりきれない要因にもなる部分だ。
途中育児の例もあげたように、ちょっと手を加えて意識が変わるものではない。
時間をかけてコツコツと。
成果はあとでしか見えてこないが、実行されない計画・施策とならないように、態勢づくりを図っていこう。


ちなみにここで育児の例を出したが、「意識が変わる」ことの難しさを共感してもらうための例示だ。
「ココに挙がったやり方やっても旦那が育児に協力的にならない!」と苦情をいただいても責任は持てない。
(むしろプロジェクトより意識変革が難しい…)