コンサルタントの日々学び

日々のデリバリーで得た体験、ノウハウ、教訓とかを週次ベースで書き留めていきます。

事例は使いどこで薬にも毒にもなる

コンサルタントに求められる「事例」。これはときに薬にもなるし毒にもなる。

あらゆる事例を引っ張ってきて、それをチョイスして、「戦略をつくった」気になったり、「自社の」計画にしたりというケースがある。

その場合に、事例をいろいろ組み合わせ、自社の状況や興味と照らし合わせ、考え尽くしたのなら「自社の」「戦略」にもなりうるだろう。

だが、単純に取捨選択しただけならそれは「過去行われたもの」を真似ただけで、競争優位にもならず、「自社の」とも「戦略」ともなりえない。

事例収集やベンチマークだけで考えるのはナンセンスであり、何も産まない。コンサルタントとしても、そこに特化した企業は他にもいっぱいいるので勝負にならない。

 

では、どんな場合に事例が薬となるか。

先述のいろいろ組み合わせ考えるインプットというのも1つだが、もう1つは改革を進める推進力としての使い方がある。

例えば、コンセプトや戦略を目に見える形や数字に転換する際に利用できる。

IT戦略において「攻めのITに!」「こんなIT部門に!」というのを議論したりするが、KGI・KPIとして数字として具体化し、コミットする際に事例が有効なケースがある。

攻めのITと言っても成長に向けた投資をどのくらいにするのか、自社の現状数字だけでなく、競合が先行していればそこに追いつくための数字、自社が先行していればそれを突き放す数字に目標を決定するときにベンチマークが使われる。

「他社について遅れている、少なくとも3年後にはこれくらいのIT投資にしたい」と数字を決めたり。

 

他にも現場やメンバーの意識醸成や視野狭窄を打破する際に事例を利用できる。

改革を進めようとする際に、なかなか現場の温度感が上がらないというのはよくある。「まだそれほどでもないでしょう」「自社は特殊なポジションだから戦略なんて考えられない」などなど。

それをうまく温度感を上げて、改革への態勢をつくるのに事例を使う。

「まだそれほどでもないでしょう」という人には競合との比較によりどれだけ遅れているか、また遅れている企業が結果どうなったかを指し示せば危機感が醸成しやすい。

また「自社は特殊だから」という人には同業で似た競合がすでにやっていることを提示することで視野を拡げることができる。


上記の2つに加えて、経営層へ訴求・理解を図る際にも事例が使える。

改革にしろIT戦略にしろ、経営層から見れば「それをやってなにの価値があるのか」「投資に見合う効果が得られるのか」は常に気にされることである。

それに対して「いややらないとまずいんです」や「みんなやりたいと思っているんです」という思いだけだと理解を得られることは少ない。

「今競合との差はここにありこれを埋めて競争優位を維持したいんです」なり、「競合との差別化はここでできておりこれをITで伸ばすんです」などがあった方が理解は促されやすい。


冒頭でも記載したように、コンサルタントとして事例提示だけで勝負すべきではないし、使いどこを間違うと顧客を正しくない方向に導いてしまう。

ただ、改革をなんとしてでも推し進める立場としては使える手はなんでも使うべきだと考えている。

リスクを踏まえつつ、使える事例はないか?常にアンテナを張っておき、出しどころを探る姿勢は持つべきだろう。