コンサルタントの日々学び

日々のデリバリーで得た体験、ノウハウ、教訓とかを週次ベースで書き留めていきます。

イマイチなデリバリーと提案の関係、その2つの着目点

デリバリ中にこういう検討もしたい、こんな意見もでているからとりいれたい、というような話が溢れ、忙しくプロジェクトを進めていたが終わってみると「う~んイマイチ」なデリバリになったことはないだろうか。


例えば、ある業界に売り込むサービスを仕立てようというプロジェクト。

はじめは顧客の困りごとは何か、ニーズは何か、それに対してどんな価値を提供するかを議論している。

だが、途中から「どうせならこんな業態も視野に入れたいね」という意見がでてターゲットや価値が曖昧になる。

また、「社内でこんなサービスやってるんだけどドッキングできないかな」という話が出て、「どう組み合わせるか?」の議論が中心になる。

だんだんと実現性の話に入っていくと、「社内の体制・IT環境だとうまくいかない」という意見が出て、社内のあるべきIT環境がアウトプットの多くを占めることになる。

 


これが当初のニーズやプロジェクトのゴールにつながるなら構わない。

だが実際は、ステコミ報告やプロジェクト・オーナーレビュー時に「何やってんの?」となる。

「この業界をターゲットとしていたのに、そんな全部どりでエッジのないサービス受けないよ」

「新たなサービスを、と言う話だったのに、なんで既存サービスの改修になっているの?」

「どうサービス提供するかという話なのに、壮大な社内IT環境改革になっていない?」

 


こうなると忙しい割に顧客満足も低めに、かつデリバリーしている側も何を提供しているのかわからなくなりモチベーションが下がってしまう。

 


この対処法はいくつかある。

途中途中でパートナークラスなど第3者視点の人のレビューを受ける、新たな要求がでたら期待値調整を都度やるなど。

だがそれは、デリバリ前、提案時に「今回何を取り扱うか」を決めておくのが大前提だ。

 


コンサルティングの提案・契約は、モノではないので、「どんな支援をするのか」「結果どんな作成物を提供するのか」を中心に記載・定義する。

デリバリー時に寄って立つのもこの提案書になる。

製造でいう受注生産と同じで、受注時にどんな内容か・どんな設計で臨むのかを決めて、それに沿って受注後は動いていく。

ただ、製造と違ってアウトプットがモノではないので、言葉に落としたとしても曖昧になりがちだ。

 


このコンサルティングの提案時に最も着目すべきは「顧客の期待・ニーズ」と「そこでの自社の価値」となる。

これをどれだけ提案討議時・受注前にクリアにするか、顧客のキーマンと期待値を合わせておくかによって、冒頭のような自体に陥るかどうかが決まる。

 


例えば、最近はやりの「DXがやりたい」という案件があったとしよう。

DXといっても「顧客の期待・ニーズ」は曖昧だ。

・「デジタルで何を加速するのか」「どんな姿になりたいのか」、という戦略レベルの話なのか。

・「実現方法やより具体的な改修するシステム・費用」、という計画の話なのか。

・「DXというけど基幹刷新したいのをこじつけただけ」、なのか。

・「長期的なキラキラした絵姿でなく、短期で実現できる策」、なのか。

どれを必須で解決したいのか。

これをまずクリアにしないと提案として進め方や期間の見積もりもできないし、デリバリ時に「どこまで対象に検討すべきか」が迷子になる。

 


「デジタルマーケを強化したい」「プロジェクトで中経の1要素の資料をつくってほしい」という話だと一見すると期待・ニーズは明らかなように見える。

でも

・「今はデジタルマーケをするにもシステムがバラバラなので統合したい」、というIT基盤の話なのか。

・「デジタルマーケをするための組織体制を明らかにしたい」、という業務・組織の話なのか。

・「とりあえずAIとか先進的なことをやっている実績つくりたい」、というテクノロジーありき・対外訴求の話なのか。

どれが顧客の真のニーズなのかによって、やり方も変わるし、アウトプットの要素も変わる。

 


真のニーズ明らかにするには、こちらから「これはどうか」と問をぶつけ、何度も提案討議を重ねて、プロジェクトの輪郭を明らかにしていくしかない。

このへんをサボって曖昧なまま、幸か不幸かうまく受注ができて走りだしたプロジェクトほど、冒頭のような「忙しいけど価値がない」プロジェクトになりがち。

 


この際に注意したいのは、案件をもってきた担当者と、より上位の決裁者/経営層の両者のニーズが異なるかもしれないことだ。

DXといって、担当は地に足ついたものを期待していたが、社長はキラキラしたコンテンツを求めていた。

デジタルマーケも、担当は社長の頭の中を棚卸し戦略に仕立てればいいと思っていたが、社長は新たなコンテンツ・ツールを求めていた、など。

「DX」みたいな上から降って湧いて、担当者がやることになったケースでは特に起こりがち。

この場合、提案討議時に担当だけでなく経営に響くかも見極め・討議が必要だし、決裁者/経営層に討議時にヒアリングすることも求めていく。

「そんな上の方をこの時点で巻き込むの?」と顧客担当からいぶかしく思われるかもしれないが、コンサルティングの費用は百万レベルの話ではない。顧客企業がカネをドブに捨てないためには時間を割いてしかるべきだろう。

 


「顧客の期待・ニーズ」に合わせて明らかにしておくべきは「そこでの自社の価値」。

自社のコンサルティングサービスに何の価値を見出しているのか、お客さんだけでできないが自分たちならできることを明確にし、相対する顧客とも認識を合わせる。

思いの外、コンサルタントに相談にきて、コンサルティングサービスを求めてきても、「どんなことを提供してもらいたいのか」がクリアになってないことは多分にある。

・社長が曲者なので、社長の頭の中をうまく引き出してまとめてほしい

・他社もやってないようなキラキラした先進的な策を出してほしい

・実現性を見て実行可能なサービスと必要なIT環境を見出してほしい

・今後もコンサル活用していきたいので、社長にその価値訴え、実績つくってほしい

などなど、これも顧客企業・案件によってさまざまだ。

提案・受注時に曖昧なままだと、デリバリ中に相対する人が勝手な期待をもってだんだん捻じ曲げられてくる。

そして「思っていた期待と違った」となってしまう顛末に至る。

これも顧客の期待・ニーズと同様、こちらから問をぶつけ、討議を重ね、輪郭を明らかにしていくしかない。

その上でデリバリ中の立脚点にする。、もし顧客から異なる期待値が出れば、オーナー含め期待値の調整・変更に動く。

 


コンサルティングサービスでは、提案にはパートナーなどその会社で一番「デキル」人が担う。

それはここにあるように、提案討議時・受注前にどれだけ「顧客の期待・ニーズ」と「そこでの自社の価値」をクリアにできるか、顧客のキーマンと期待値を合わせられるか、それがプロジェクトの命運を決めるからだ。

もし提案にかからんようになったなら、この重責とリスクを理解しつつ、プロジェクトの一歩めであり全てであるプロセスを楽しもう。