コンサルタントの日々学び

日々のデリバリーで得た体験、ノウハウ、教訓とかを週次ベースで書き留めていきます。

自分の意見に確信がもてない症候群とピエロを演じる重要性

お客さんとの打ち合わせ、議論の中で、自分の答えの確信がもてず、迷いが生じ、言葉を発せない、ということはないだろうか。


私はジュニアコンサルのとき、自分がオーナーの打ち合わせでよくこういう事態に陥っていた。
開発工程など自分の知見があるときはいいが、IT戦略や業務改革の構想策定など、初めてだったり経験が少ないときによくそうなっていた。

「業務改革ならもっとここにテコ入れすべきでは。でも自分が知らない前提があるだけでは」
「IT戦略ならインフラ周りも検討すべきじゃないだろうか。今回はそういう話ではないのだろうか」
「ここはちょっとリスクがありそうだけど言っていいのだろうか。自分の思い違いでないだろうか」
など思考がグルグル周り、自信のなさに考えていることを発信できない。

 

これを回避して、自分の意見を発信し、議論を生産性高いものにするにはどうしたらいいか?
1つのヒントは先日書いた「棒立ち回避のための5つのパターン」だが、もう1つ、スキル的な話以外に、意識的な話も挙げておきたい。

それは「ピエロになりきれていない」ということだ。

 

コンサルタントの役周りには2タイプある。
1つは「これがベストソリューションです」と答えを提示する。
会社の状況や他社の事例をもとに答えを与える役。

もう1つは一緒に案を叩き上げ、全員が「コレだ!」と思えるものを作りあげていく。
自分の意見、参加者の意見をもとに、「何が会社にとってベストか」を伴走しながら、参加者の腹落ち・意識づくりを一緒に行う役。

1つ目の役割をにない、バシッといい答えを出せればいいが、VUCAの時代、1つの解答は各社の解答にはならない。
またその解答も「与えられたもの」であれば実行段階では絵餅になり、いずれおざなりになって頓挫する。

私が勤める会社も後者の役割を我々の価値としている。

この後者の伴走役をやるときに、自分の回答=プロジェクトの解答、である必要はない。
あくまで1意見であり、議論を活性化させるための土台でしかない。

 

IT戦略をたてるときに、「さぁ考えましょう」と言ってもすぐには考えられない。
そのときに
「自分はここにテコ入れするIT戦略を考えてみた」
「いくつか案があるが、メリデメ、リスクを考えるとこれがよさそう」
「一応考えたステップやインプットはこういうものを用いた」
という叩き台がある方が議論は活性化する。

 

「いや、自分はテコ入れするのはここじゃないと思う」
「メリデメの認識が違う。自分はこういう要素だと思うし、この要素はもっと悪影響及ぼすと思う」
「この観点だけだと甘いのでは?投資額をもっと考慮にいれないと」

叩き台があることでいろいろな意見がでてくる。
見当違いなところがあっても、「何らしかのモノ」があることで、それに対する意見は言いやすいものだ。
出た意見をもとに
「じゃあテコ入れ要素は他に何がある?」
「この評価するのに何がインプットになる?」
などブラッシュアップしていくのだ。

 

私が先に「ピエロ」と言ったのは、この叩かれ役を意図している。
ピエロはいつでも笑顔で人を楽しませる。
たとえ家族が危篤であろうと、自分がバカにされようと、けなされようと、相手を楽しませるために笑顔を作り続ける。

コンサルタントもそれと同じだ。

お客さんの会社がもっとよくなるために考え続ける。
たとえ、自分の案が的外れでも、バカにされても、けちょんけちょんに言われても、お客さんがもっとよくなるなら何度でも叩かれる。
自分の意見に対するプライドなんていらないのだ。

私もいろいろ思考した案をパートナーから「クソだね」と言われたり、すべて目の前で捨てられてゼロから作り直された。
顧客からも案を無視され、「そんなのよりオレが考えるのはこうだ」とその場で別案を挙げられた。
それでも「何か」がないと、パートナーや顧客の思考は引き出せないし、ものごとが動き始めないので、それもやむなしと考えた。
「顧客にとっていい方向に動くなら、自分の意見を捨て駒にされるのは本望だ」と。

 

意外かもしれないが、これまで学業で優等生だった人ほど、この状況に陥る。
考えてみれば当然だ。
これまでは「問」があり、それに対して常に「1つの正解」があり、必死にそれを考えてきた。
だがコンサルタントの現場になると、「問」もないし、「1つの正解」もない。
これまでの思考で、「1つの正解」を出そうとして、合っているかわからないので自信をなくし、言葉を発せなくなる。
思考の罠だ。

これを解消する「1つの正解」を私は知らない。
私がやったのは「自分はピエロ」と念じ続け、顧客へのサンドバッグとして立ち続けたことくらいだ。

 

自分の答えが「顧客の答え」ではない。
自分がこれと思っても、顧客がそう思わなければ仕方がない。
そこに辿り着くために、「お客さんのために」を考え、叩かれ続ける。

コンサルタントコンピテンシーに「メンタルタフネス」が入るのが一般的だ。
私はこの「ピエロ役」がコンサルタントとして重要であるためにこのコンピテンシーが入っているのだろうと思っている。